親が亡くなり、実家が空き家となった。不動産を相続したら「相続登記が義務化」されたと聞いたけど、「相続登記」をどのように進めたらいいのか分からない!
そんなお悩みを持つ方へ・・・「不動産買取再販専門会社」で約19年働いた「不動産の買取と販売」のプロである僕が、
- 相続登記とは
- 所有者不明土地の増加
- 相続登記が義務化されました
- 相続登記を行わない場合のリスク5選
- 相続登記申請の流れ
を、不動産業者目線で解説します!
これを読めば、「相続登記の義務化」と「相続登記申請の流れ」が分かります。
相続登記とは
「相続」とは、亡くなった人が所有していた財産や権利義務を、配偶者や子、親族などが引き継ぐことです。相続では、亡くなった人を「被相続人」、財産を受け継ぐ人を「相続人」といいます。
そして「相続登記」とは、被相続人が所有していた不動産の名義を相続人の名義に変更する手続きです。
「登記」とは不動産の所在・面積のほか、所有者の住所・氏名などを法務局で管理されている登記簿(登記記録)に記載し、これを一般公開することにより、第三者に対し権利関係などの状況を明らかにし、取引の安全と円滑をはかる制度です。
所有者不明土地の増加
令和4年度国土交通省調べによるデータによるとわが国には、「所有者不明土地」が国土の約24%も存在しており、その面積を合わせると九州の面積よりも広いと言われています。
「所有者不明土地」とは、登記簿をみても所有者が分からない土地、または、所有者は分かっていてもその所在が不明で所有者に連絡がつかない土地のことをいいます。「所有者不明土地」が生じる主な要因として、
- 相続の際に相続登記が行われていないこと
- 所有者が転居したときに住所変更の登記が行われていないこと
などがあります。
管理されずに放置された「所有者不明土地」は周辺の環境や治安の悪化を招いたり、防災対策や開発などの妨げになるなど各地で社会問題になっているため、その解消を目指し、2024年4月1日から、相続登記の申請が義務化され、さらに2026年4月1日から、住所変更の登記等の申請が義務化されます。
相続登記が義務化されました
2024年4月1日から相続登記が義務化
これまでは相続登記の申請は任意で、相続した不動産を売却しない場合は、費用や手間をかけてまで登記の申請をしなくても特に大きな問題が起きることはありませんでした。
しかし、前述したように「所有者不明土地」の増加が社会問題となっており、「所有者不明土地」の発生を防ぐため2024年4月1日から相続登記の義務化が開始されました。
なお、2024年4月1日以前に相続が発生していた相続登記未了の不動産も、3年の猶予期間がありますが義務化の対象になりますので、注意が必要です。
3年以内に登記しない場合、10万円以下の過料
相続により不動産を取得した相続人は、その不動産を相続したことを知った日から3年以内に相続登記の申請を行わなければなりません。正当な理由がないにもかかわらず申請をしなかった場合には、10万円以下の過料が科されることがあります。
「不動産を相続したことを知った日」とは、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その「所有権」を取得したことを知った日のことです。
義務化の対象となるものは、不動産の「所有権」のみで、地上権や賃借権、抵当権などの各種権利は相続した場合でも義務化の対象とはなりません。
遺言相続の場合
「遺言書」があり、その遺言によって不動産の所有権を相続する相続人は、遺言者が亡くなった(=相続が開始された)ことを知り、かつ、遺言によって不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に、その相続登記を申請しなければなりません。
遺言については、別記事にて詳しく説明しています。
遺産分割協議による相続の場合
「遺産分割協議」によって不動産を取得した相続人は、自身が相続人であることを知り、かつ、相続財産の中に不動産があることを知った日から3年以内に、遺産分割協議書を添付のうえ相続登記を申請しなければなりません。
遺産分割協議については、別記事にて詳しく説明しています。
法定相続の場合
「法定相続」によって不動産を取得した相続人は、自身が相続人であることを知り、かつ、相続財産の中に不動産があることを知った日から3年以内に、民法で定める法定相続分での相続登記を申請しなければなりません。
法定相続については、別記事にて詳しく説明しています。
法定相続をした後に遺産分割協議をした場合
「法定相続」での相続登記がされた後に「遺産分割協議」が成立したときは、「遺産分割協議」によって不動産を取得した相続人は、遺産分割の日から3年以内に、所有権移転登記を申請しなければなりません。
相続登記を申請しなくてもよい「正当な理由」の例
3年以内に相続登記を申請できない「正当な理由」があれば、過料が科せられることはありません。
どのような理由が「正当な理由」に該当するかは、法務局の登記官が個別事情を確認して判断することになっていますが、法務省の通達にて下記の例は「正当な理由」が認められるとされています。
- 相続人が極めて多数で、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合
- 遺言の有効性や遺産の範囲等が相続人等の間で争われている場合
- 相続登記の申請義務者自身が重病等の事情がある場合
- 相続登記の申請義務者が配偶者からの暴力を受け、その生命・心身に危害が及ぶおそれがあるため避難を余儀なくされている場合
- 相続登記等の申請義務者が経済的に困窮しており、登記の申請に要する費用を負担する能力がない場合
相続人申告登記の申出
「遺産分割協議」がまとまらず、速やかに相続登記を申請することができない場合は、自分が相続人であることを法務局に申し出ることで、相続登記の申請義務を果たすことができる「相続人申告登記」の制度が2024年4月1日より創設されました。
申出にあたっては添付書面として、自分が被相続人の相続人であることがわかる戸籍謄本を提出するだけでよいとされています。
法定相続人の範囲及び法定相続割合の確定も不要ですが、相続登記とは異なり、所有権の取得を登記するものではないので、申出をした相続人の氏名、住所は登記されますが、持分までは登記されません。
登録免許税や印紙税などの手数料がかからず、戸籍謄本など必要書類の取得費用のみで手続きができるため、取り急ぎ相続登記義務を履行でき、義務不履行による過料を回避できる効果があります。
この「相続人申告登記」の申し出は、相続人が複数いる場合でも単独で申し出ることができますが、その場合申出をした相続人のみが義務を履行したことになり、他の相続人にはその効果は及ばないため、注意が必要です。
相続登記を行わない場合のリスク5選
相続登記を行わない場合、義務不履行による過料が科されること以外にも様々なリスクがあります。
権利関係が複雑になる
相続登記を行わないことで起こる最も厄介なリスクの一つとして、相続人の数が増えて相続関係が複雑になっていくということがあります。
これまでは、例えば不動産の所有者(登記名義人)である父が亡くなり、その相続人が子3人だった場合、相続登記をしないまま子3人が亡くなり、その子にそれぞれ子(所有者の孫)が2人ずついれば計6人が相続人となり、その孫も死亡した場合その子が…とネズミ算式に相続人が増えていくことがありました。
こうなると、相続人が誰かを調べる「相続人調査」にも時間や手間がかかり、さらに相続人全員で合意して「遺産分割協議」や「法定相続」による相続登記を行うことは、事実上かなり困難になります。
このように相続登記を行わず放置した結果、所有者の把握が困難となった不動産が多いことも、前述の「所有者不明土地」が増加している理由のひとつです。
現在は3年以内に相続登記という期限ができたため、長期間にわたり相続登記を放置することはできなくなりました。しかし、3年の間に相続人が亡くなる可能性はありますので、権利関係が複雑化するリスクがまったく無くなるわけではありません。
不動産の売却や担保提供ができない
相続登記をしないと登記簿上の所有者は亡くなった方のままです。相続人には不動産を売却する権限自体はあります。ところが、亡くなった方の名義のままでは、不動産を売却し買主名義に所有権移転登記手続きをすることができません。
また、相続した不動産を担保に銀行から融資を受けたいときに、相続登記をしていない場合には、やはり亡くなった方の名義のままでは銀行が抵当権の設定登記をすることができないため、融資を受けることもできません。
不動産の売却や、不動産を担保に融資を受ける場合は、先に相続登記を行う必要があります。
責任や義務についてトラブルになる場合がある
相続登記をしないと登記簿上の所有者は亡くなった方のままですが、実際には不動産は相続人による共有状態となります。そして不動産の所有者である相続人全員に、不動産を適切に管理する責任や義務が生じます。
不動産を空き家や空き地のまま放置した結果、例えば老朽化した建物の外壁が崩壊したり、境界塀が倒壊したりして通行人にケガを負わせた場合などに、不動産の所有者は管理責任を問われることがあります。
この管理責任は原則として相続人全員が負うことになりますが、実際に問題が生じてからでは、相続人間で責任を押し付け合うなどトラブルになる可能性が考えられます。
また、不動産の所有者は固定資産税を納めなければなりませんが、この支払いを巡っても相続人間で収拾がつかない可能性もあります。
認知症により遺産分割が困難化する
高齢化社会になり問題となるのは、相続人が認知症になることです。認知症の方は判断能力や意思能力が不十分なため、取引により不利益を被ることを避けるため法律行為を制限されてしまいます。
そしてこの制限される法律行為には「遺産分割協議」も該当します。相続人が認知症で判断能力が低下していると、遺産分割協議に参加して意思表示することができません。
このような場合、「成年後見制度」を利用し家庭裁判所に「成年後見人」を選任してもらうことになります。つまり、認知症の相続人(成年被後見人)の後見人を家庭裁判所に選んでもらうわけです。
「成年後見人」の選任手続きには通常1~3カ月ほどかかります。また、「成年後見人」は成年被後見人の財産を維持するという職責を負いますので、成年被後見人の相続分を法定相続分よりも少なくする内容の遺産分割協議を他の相続人が希望しても、認めてもらえない可能性があります。
不動産の差押や共有持分を売却される
相続人の中に借金をしている人がいる場合には注意が必要です。返済が滞ってしまうと債権者は、その借金をしている相続人の法定相続分にのみ、本人に代わって相続登記(代位登記)を申請して差し押さえをできます。
差し押さられた不動産を売却するためには債権者の同意が必要となり、売却代金から借金を返済しなければならない可能性があります。
また、相続人は共有持分のみ売買したり担保提供したりすることが可能であり、そういった共有持分だけを買い受ける不動産業者も存在します。借金をしている相続人の債権者が差し押さえた持分のみ競売手続きを行う可能性もあり、知らない間に相続人ではない第三者が権利関係に入ってくることもあり得ます。
相続登記申請の流れ
遺言書の有無を確認する
不動産の相続が発生したら、遺言書があるかどうかをまず確認します。
遺言書がある場合は、「遺言による相続」となり、遺言書で指定された人が新たな所有者として不動産を相続します。遺言書の形式によっては家庭裁判所による検認が必要になります。
遺言については、別記事にて詳しく説明しています。
相続人調査を行う
遺言書が無い場合は、民法で定められた法定相続人が不動産を相続することになりますので、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本を取り寄せて「相続人調査」を行います。
基本的には被相続人(=亡くなった人)の配偶者と子ですが、子がいない場合は親や兄弟姉妹も相続人となり得ます。被相続人に離婚歴がある場合などは、前配偶者との間の子も相続人となり、養子も相続人となります。さらに、相続人がすでに亡くなっている場合は、その子がさらに代襲相続することになります。
相続する不動産を確認する
法定相続人の調査と同時進行で、権利証(登記識別情報)や市町村から届く固定資産税の課税明細書を見て、相続対象となる不動産を確認します。
もし、それらの書類がなければ、所有する不動産があると思われる市区町村で「名寄帳」を確認する必要があります。
遺産分割協議を行う
遺言書がなく、共有状態での相続を避けたい場合は、不動産について誰が引き継ぐかの「遺産分割協議」を相続人全員で行います。そしてその内容をまとめた「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員が署名し、実印で押印します。相続人が一人でも欠けた状態でなされた分割協議は無効となります。
遺産分割協議については、別記事にて詳しく説明しています。
相続登記申請に必要な書類を準備する
- 遺言書で指定された相続人
- 遺産分割協議により不動産を引き継いだ相続人
- 法定相続する相続人(共有の場合でも単独で申請可能)
上記の不動産を引き継ぐ相続人が、相続登記に必要な8つの書類の準備を行い、手続きを進めます。
- 登記申請書
- 不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)
- 遺言書または遺産分割協議書
- 被相続人の死亡時から出生時までの戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票
- 相続人全員の戸籍謄本、住民票
- 法定相続人の印鑑証明書
- 固定資産評価証明書
管轄の法務局へ相続登記を申請する
相続登記の申請は法務局窓口でも郵送でもできますが、自分で申請する場合は簡易なミスをその場で訂正できる窓口申請がおすすめです。
対象の不動産の住所地を管轄する法務局へ行き、不動産登記の窓口を探して、登記申請書と添付書類一式を提出して申請します。
相続登記には「登録免許税」の納付が必要で、金額は「不動産の固定資産評価額の0.4%」です。先に別の窓口でその分の収入印紙を購入し、申請書に貼り付けて提出します。
書類の審査と登記には1週間~10日くらいかかります。無事に登記が完了したら、登記識別情報の通知や登記完了証を受け取れますので、そのまま大切に保管します。
まとめ
相続では、亡くなった人を「被相続人」、財産を受け継ぐ人を「相続人」といい、「相続登記」とは、被相続人が所有していた不動産の名義を相続人の名義に変更する手続きです。
相続登記が行われていないなどの理由により、登記簿をみても所有者が分からない土地、または、所有者の所在が不明で所有者に連絡がつかない土地のことを「所有者不明土地」といい、この「所有者不明土地」の発生を防ぐため2024年4月1日から「相続登記の義務化」が開始されました。
義務化以降、相続により不動産を取得した相続人が、その不動産を相続したことを知った日から3年以内に正当な理由がないにもかかわらず相続登記の申請をしなかった場合には、10万円以下の過料が科されることがあります。
2024年4月1日以前に相続が発生していた相続登記未了の不動産も、3年の猶予期間がありますが義務化の対象になりますので、注意が必要です。
なお、3年以内に相続登記を申請できない「正当な理由」があれば、過料が科せられることはありません。また、自分が相続人であることを法務局に申し出ることで、相続登記の申請義務を果たすことができる「相続人申告登記」の制度も2024年4月1日より創設されています。
相続登記を行わない場合、義務不履行による過料が科されること以外にも主に5つのリスクがあります。
- 権利関係が複雑になる
- 不動産の売却や担保提供ができない
- 責任や義務についてトラブルになる場合がある
- 認知症により遺産分割が困難化する
- 不動産の差押や共有持分を売却される
最期に、相続登記の手続きの流れは以下の通りです。
- 遺言書の有無を確認する
- 相続人調査を行う
- 相続する不動産を確認する
- 遺産分割協議を行う(遺言相続、法定相続の場合は不要)
- 必要書類を準備する
- 管轄の法務局へ登記を申請する
相続登記の申請は法務局窓口でも郵送でもできますが、自分で申請する場合は簡易なミスをその場で訂正できる窓口申請がオススメです。
なお、相続登記のコスト・時間・手間を抑えたい場合は、相続不動産専門の名義変更webサービスの利用が便利です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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